- 2009-07-20 (月)
口内炎が痛い。これまで僕が作ってきた口内炎は、どれも口の中を誤って噛んでしまって、その傷口が悪化する種類のものだったのでよかったが、今回の口内炎は自然発生したものだ。ということは、僕の栄養管理に問題があるということなのだろう。まきびしを頬張っているかのような痛みにここ1週間さいなまされていて、食事をとるのだって一苦労だ。
例えば体中の神経を1本1本引きちぎられたとしても、その痛みは1ミリも他の人に伝わることはない。言うまでもなく、それは他人だからだ。いくら腹を下してひどい腹痛に見舞われていても、居合わせた友達からは「そっか、大変だね」という同情の言葉を得ることしかできない。「そっか、じゃあ治してあげよう」といっておもむろに開腹手術をし始めるような友達はいないし、いても困る。
ただ、自分が苦しむ分にはいい。困るのは、他人が苦しんでいる場合だ。どんなに相手の苦しみを汲もうとしたところで、それは想像に過ぎない。苦しみは全く同じ経験をした者同士でしか分かち合うことはできないのだ。
そして、もっとも危惧すべき実際の問題として、出産が挙げられる。愛に溢れた家庭を築こうと約束し、以来平和に暮らし着てきた新婚夫婦に初めて訪れた出産という大舞台。痛みに苦しむ妻。応援する夫。「痛いだろうけど、頑張れ!」病院中に響き渡るような大声で夫が励ます。が、当然夫は少しも痛まない。妻は「他人事だからって」と口角泡を飛ばす。「あなた子供産んだことあるの」と叫ぶ妻。―と、このやり取りも想像に過ぎないが、それほど出産の痛みは辛いと聞くから、こういった感情は湧き起こってもおかしくないはずだ。
痛みが妻か夫、出産の場合は妻だが、どちらかにしか発生しないからこういった「他人事のくせに問題」が起こる。では、そういう時にどうすれば妻と痛みを共有できるのか。そこで口内炎である。
病院にはたくさんの薬とかたくさんの医者がいるから、口内炎を意図的に作るなんて楽勝だろう。で、ストレッチャーを追いかける夫の口に一箇所だけ口内炎を作り、続けてその患部に直接口ピアスを開けるのだ。想像しただけでも痛い。さすがに病院だから殺菌消毒はしてもらえるだろうが、痛いのは間違いない。ストレッチャーの隣で喚き散らす夫。何事かと心配する妻。
「どうだ、俺だって痛いんだ。だから頑張れ」
「そうね、あたし頑張る」
完璧だ。これで出産を境に互いがギクシャク、なんてこともなくなる。生まれてきた子供も仲睦まじい夫婦を見て育つことになる。ありがとう口内炎。頼りになるぜ口内炎。
僕も男で結婚願望がある以上、少なからず出産の立会いを経験する可能性はある。その時に口内炎をこしらえているかどうかは分からないが、僕に限ってはピアスを開ける必要はない。口内炎だけで十分に喚き散らせるからだ。
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